HEADs AI の AKI です。
評価制度でいちばんよく聞く困りごとは、これです。
「評価する人が変わると、結果が変わってしまう」
Aさんは全体に甘い。Bさんは辛い。Cさんは面談のときの印象で決めている。同じくらいの働きぶりでも、どの部署にいるかで評価が変わる。そうなると、本人は結果を受け取れません。制度そのものが信用されなくなります。
この記事は、そこにAIをどう使うかの話です。先に結論を書きます。
AIに評価はさせません。決めた基準どおりに書けているかを、点検してもらいます。
ぶれているのは、3か所
「評価がばらつく」とひとことで言いますが、中を開けると3つに分かれます。
1つめ。何を見るかがぶれている。ある人は数字だけを見る。ある人は普段の態度を見る。ある人は直近3か月の印象で決める。どれも本人は真面目にやっています。けれど見ているものが違えば、結果は揃いません。
この「見方の癖」には、人事の世界で名前が付いています。目立つ長所や短所に引きずられて他の項目も同じように見てしまうハロー効果。全体に甘くなる寛大化傾向。自信が持てず全員を平均的な評価に寄せる中心化傾向。自分の能力を基準にしてしまう対比誤差。直近の出来事に引きずられる期末誤差。昔から知られている、人の癖です。
2つめ。何を書くかがぶれている。評価シートの埋め方が人によって違います。全項目を丁寧に書く人、半分空欄のまま出す人、一行で済ませる人。書く粒度も違います。「よくやっている」で終わる人と、具体的な出来事を挙げる人が、同じ様式の紙に並びます。集まった時点で、比べられるものになっていません。
3つめ。何を根拠にしたかが残らない。「B評価」とだけ書かれた紙が残る。半年後に「なぜBだったのか」と聞かれても、誰も答えられない。根拠が残っていないものは、あとから揃えようがありません。
これまでの対策と、AIで変わるところ
この問題は昔からあるので、対策も定番があります。
- 評価基準を具体的にする
- 評価者研修をやる
- 日頃から記録をつけて、対話する
- 複数人で評価する
どれも正しいですし、いまでも有効です。この記事もこれを否定しません。
ただ、続かない理由もはっきりしています。記録をつけるのも、複数人で突き合わせるのも、手間がかかるからです。研修で学んだことは、忙しい時期に薄れます。人数が増えれば、全員分を突き合わせる時間が取れません。
AIで変わるのは、この手間の部分だけです。基準を決めるのも、判断するのも、変わらず人の仕事です。それでも、手間が理由で止まっていたことが回るようになれば、結果はだいぶ違います。
先に、基準を決める
AIの話の前に、決めることがあります。点検してもらうには、点検する基準がいるからです。
目標を決めるときに、3つをセットにします。
- 目標 ── 何を達成したいか
- 重点行動 ── そのために、具体的にどう行動するか
- 確認方法 ── 何を見て、進み具合を確認するか
営業の例で書きます。
目標:新規商談数 月10件
重点行動:週に1回、見込み顧客リストを更新する
重点行動:既存のお客様との商談後に、紹介依頼を1件行う
重点行動:商談後に、次回やることを必ず記録する
確認方法:商談記録、紹介依頼メモ、見込み顧客リスト
確認方法まで書いてあるところが大事です。ここが決まっていると、評価者が違っても同じものを見ることになります。1つめのぶれが、その分だけ減ります。
定性目標も同じです。「主体性を持つ」だけでは、人によって解釈が変わります。日常の業務で確認できる行動まで書きます。
目標:商談前に、お客様の課題の仮説を立てて準備する
重点行動:商談前に「お客様の状況」「想定される課題」「確認したいこと」を1つずつ書く
確認方法:商談前メモ、商談後メモ、1on1での振り返り
項目の数は定量3・定性2の5つまで。多いと、どこを重視するかが人によって変わります。
AIの仕事は「評価」ではなく「点検」
基準が決まったら、AIの出番です。やってもらうのは点検です。書かれたものが基準を満たしているかどうかだけを見てもらいます。
点検その1:書き漏れがないか
まず、決めた欄が埋まっているかを見ます。
これは評価シートです。次の基準で点検してください。
・定量目標が3つ、定性目標が2つ書かれているか
・それぞれに重点行動と確認方法が書かれているか
・期中の1on1の記録が、月ごとに残っているか足りないところだけを、箇条書きで挙げてください。
評価の内容が妥当かどうかは判断しないでください。
人が10人分を目で確認すると、必ず見落とします。AIは、1人目も10人目も同じ厳しさで見ます。疲れませんし、相手によって手加減もしません。
点検その2:具体性が足りているか
埋まっていても、中身が薄ければ比べられません。
次の記述を、具体性で分けてください。
A:いつ、何をしたかが書かれている
B:行動は書かれているが、いつ・どれくらいが分からない
C:印象や評価だけで、行動が書かれていないBとCのものは、そのまま引用して挙げてください。
Cに分けられたものが、「よくやっている」「積極性に欠ける」といった、書き手の印象です。ここが多い人ほど、評価がぶれます。
点検その3:根拠が記録にあるか
これがいちばん効きます。
次の評価コメントについて、記録のどの部分が根拠になっているかを示してください。
記録の中に根拠が見つからない記述があれば、その一文を指摘してください。
評価の妥当性は判断しなくて構いません。根拠があるかどうかだけを見てください。
通すと、はっきりします。
- 「積極性に欠ける」── 記録のどこにも、その事実がない
- 「顧客対応が丁寧」── 具体的な出来事が1件も挙がっていない
- 「目標未達だが成長が見られる」── どの行動が変わったのかが書かれていない
指摘されたところを書き直すと、面談が変わります。「なぜこの評価なのか」と聞かれたときに、記録を指さして答えられるようになるからです。
点検その4:全員分を同じ形に並べる
点検が終わったら、比べられる形に整えます。全員分を同じ頼み方で整理します。
これは、ある社員との1on1の記録です。半年分あります。
次の3つに分けて整理してください。1. 続けている行動
2. 変えたほうがよさそうな行動
3. 上司や会社が支援すること・それぞれ、記録の中の言葉を使って書いてください
・記録に書かれていないことは、推測して足さないでください
・結果(数字)と、行動を分けて並べてください
「記録に書かれていないことは足さないでください」の一行は必ず入れてください。これが無いと、AIはもっともらしい一般論を混ぜてきます。
同じ頼み方をすれば、同じ形で返ってきます。部署をまたいでも比べられるようになります。
評価そのものは、AIに決めさせない
点検はさせても、判断はさせません。理由は3つあります。
ひとつめは、記録に無いことをAIは知らないからです。体調を崩していた時期、担当を引き継いだ直後の数か月、そういう事情は記録に残りません。点数だけを見れば下がって見えます。
ふたつめは、説明できなくなるからです。「AIがそう判断しました」では、本人は納得しません。評価は、人が決めて、人が説明するものです。AIは、その説明を確かなものにするために使います。
みっつめは、法律の面でもリスクがあるからです。
人事の情報をAIで分析すること自体が、個人情報の取り扱いとして規制の対象になります。本人にどう説明するかも問われます。さらに、AIが出した評価に客観的な合理性が無ければ、人事権の濫用と判断されることがあります。過去には、人に関するデータのAI分析をめぐって、行政から指導が入った例もあります。
もうひとつ知っておいてほしいのは、AIは過去のデータに含まれる偏りを、そのまま引き継ぐということです。これまでの評価に偏りがあれば、それを学んで再現します。場合によっては強めます。点検には使えても、判断そのものを預ける相手ではありません。
次の3つも、任せません。
- 続ける・変える・支援する、それぞれに何を入れるかの選び方
- 変えたほうがいい行動のうち、本当に変えるべき1つに絞る判断
- その1つに、上司と本人が合意するかどうか
甘い・辛いは、人が調整する
ここまでやっても、評価者ごとの傾向は残ります。
それでいいと思います。大事なのは、傾向が見えるようになることです。全員分が同じ形で並んでいれば、「この部署だけ全体に高い」が分かります。分かれば、評価会議で調整できます。
これまで調整できなかったのは、甘辛があったからではなく、比べられる形になっていなかったからです。
始める前に決めておくこと
2つだけ、先に決めてください。
1つめ。AIに入れない情報を決めておく。1on1の記録には、家庭の事情や健康の話が混ざっていることがあります。何を外すかを先に決めておかないと、途中で手が止まります。
2つめ。誰がやるかを決めておく。各自にやらせると、頼み方が人によって変わります。揃えるための取り組みなのに、そこがばらばらでは意味がありません。部門にひとり決めて、その人がまとめて回します。
使うAIは、法人向けの契約のものにしてください。ChatGPT Business か Claude Team です。人事の情報を入れる以上、個人のアカウントで済ませないほうがいいです。
まとめ
- ぶれているのは3か所。何を見るか/何を書くか/根拠が残るか
- 先に基準を決める。目標・重点行動・確認方法を3つで1組、項目は5つまで
- AIの仕事は点検。書き漏れ、具体性、根拠の3つを見てもらう
- そのうえで、全員分を同じ頼み方で同じ形に並べる
- 評価そのものは決めさせない。決めるのも説明するのも人。運用の話だけでなく、法律の面でもここは越えない
制度を作り替える必要はありません。次の期の目標を決めるときに、重点行動と確認方法の欄を足す。そこから始められます。
AIに何をどう頼むか、誰が何をして、何ができあがるのかまでを書いたページがあります。実際のマニュアルのサンプルも置いてあります。